スタートアップの経営者の方にとって,顧問弁護士と契約するか否かは,事業を進める上で,一つの悩むポイントではないでしょうか。
この記事では,そのような経営者の方を対象に,スタートアップが弁護士との間で顧問弁護士を締結することによって得られるメリットや,平均的な顧問料の相場,顧問弁護士の選び方などを紹介したいと思います。
スタートアップが顧問弁護士と契約するメリット
スタートアップにとって,毎月数万円の顧問料の出費は,決して軽い負担ではないと思います。
そのため,弁護士との間で顧問契約を締結することを検討しているスタートアップの経営者の方にとって,どのようなメリットを顧問料の対価として享受できるのかは,重要な関心事になると考えられます。
そこで,まずはスタートアップが顧問弁護士と契約することによって享受できるメリットをいくつか紹介します。
イグジットを見据えた適切な会社経営の可能性
1点目としては,M&AやIPOを見据えて適切な会社経営を行えることが挙げられます。
スタートアップは,基本的に株式発行などのエクイティ・ファイナンスによって資金調達を行うことになりますが,エクイティ・ファイナンスにおける出資者は,最終的にM&AやIPO時の株式の売却などによって金銭的リターンを得ることを目的としています。
したがって,スタートアップは,M&AやIPOに向けて適切に会社を経営していく必要があります。
このM&AやIPOとの関係で,気軽に相談できる弁護士が身近に存在しない場合,次のような失敗に陥ってしまう可能性があります。
経営陣としては買収に応じたいが,株主の中に買収に反対の者がいる関係で,買収に応じられない。
過去に行われた株式譲渡の内容が不明確になっており,誰が株主かが明確に分からない株式が存在する関係で,イグジットの準備が進められない。
顧問弁護士と契約を締結することには,これらの失敗を回避できるメリットがあると言えるでしょう。
事業経営のスピードを高められる可能性
顧問弁護士と契約を締結することのメリットとしては他に,事業経営のスピードを高められる可能性が挙げられます。
スタートアップは,事業を進めていく上で,法的知識が必要となる場面に遭遇することが少なくありません。たとえば,次のような場面では法的知識が必要になってきます。
取引先の開拓にあたり,契約書や利用規約を見たいと言われた。
新しいサービスをリリースするにあたり,当該サービスの適法性調査や,利用規約及びプライバシーポリシーの作成が必要になった。
事業を拡大していく上で,他社との間で業務提携を行うことを検討している。
事業を拡大していく上で,新しい媒体に広告を出稿することを予定している。
このような場面において,気軽に相談することができる弁護士が身近におらず,社内で法的問題を検討したり,新規に相談できる弁護士を探したりしていると,どうしても意思決定のスピードが落ちてしまいます。
顧問弁護士と契約を締結するには,上記のような場面で必要な法的知識を迅速に手に入れることができ,事業経営のスピードを高められるというメリットがあると考えられます。
もちろん,社内弁護士を雇用するというのも,事業経営のスピードを高めるための1つの手段になると考えます。しかし,多くのスタートアップでは,社内弁護士を1人雇用するよりも,外部の弁護士との間で顧問契約を締結する方が,負担すべき費用の総額は小さくなると考えられます。
顧問弁護士の平均的な顧問料
では,スタートアップが弁護士との間で法律顧問契約を締結する場合,月々の顧問料としては,何円程度を負担する必要があるのでしょうか。
少し古いデータにはなってしまいますが,2009年に日本弁護士連合会が実施したアンケート調査では,顧問弁護士に支払われる顧問料の相場は月額3万円から5万円とされています(ひまわりほっとダイアル「顧問弁護士」)。
この相場感は,スタートアップが弁護士との間で締結する法律顧問契約にも基本的には当てはまるものと考えられます。
顧問弁護士との契約を考えられている方は,月額3万円から5万円程度を一つの目安にすると良いかもしれません。
もっとも,当然のことではありますが,顧問契約については,顧問料の金額が安ければ安いほど良いわけではなく,顧問料の範囲内で提供されるサービスの内容も吟味してはじめて,その価値が算定されるものだと思います。
顧問契約の締結を考えられている方は,顧問料の金額だけでなく,その金額で提供されるサービスの内容もしっかりと確認される必要があると考えます。
顧問弁護士を選ぶ際のポイント
それでは,顧問料の範囲内で提供されるサービスの内容を確認する際,具体的にはどういった点に注意をすれば良いのでしょうか。
顧問弁護士によって提供されるサービスについては,その量及び質の両側面から評価することが必要だと考えます。
提供サービスの量
まず,顧問弁護士によって提供されるサービスの量は十分に確認する必要があります。
法律顧問契約は,「パッケージ型」と「タイムチャージ割引型」とに分けることが可能であるように思います。
※ もちろん,パッケージ型とタイムチャージ割引型の両側面を併せもつ法律顧問契約も考えられますが,ここでは単純化して説明します。
パッケージ型は,たとえば,決められた数の契約書の作成やリーガルチェック,決められた形式や回数の法律相談が顧問料の範囲内で提供される形の契約です。
毎月5万円の範囲内で,次の各業務に対応する。
・合計20頁までの契約書のリーガルチェック
・会議形式での合計1時間以内の法律相談
顧問弁護士に依頼する業務の内容が事前にある程度予測できる場合に向いている形の契約と評価できるでしょう。
このようなパッケージ型の法律顧問契約を検討する場合には,その契約に含まれる業務の内容と量が自社の状況に適合しているか否かを吟味する必要があると考えます。
これに対し,タイムチャージ割引型は,基本的にはあらゆる業務が顧問料の範囲内で対応可能となっており,一定時間分の業務(または通常のタイムチャージで換算した場合の一定金額分の業務)が顧問料の範囲内で対応可能となる形の契約です。
・毎月5万円の範囲内で,毎月3時間以内のあらゆる業務に対応する。
・毎月4万円の範囲内で,タイムチャージ換算で毎月6万円以内のあらゆる業務に対応する。
顧問弁護士に依頼する業務が多岐にわたる可能性がある場合に向いている形の契約と評価できると思います。
このようなタイムチャージ型の法律顧問契約を検討する場合には,通常のタイムチャージの金額と,顧問料の範囲内とされる稼働時間の長短を吟味する必要があると考えられます。
提供サービスの質
次に,顧問弁護士によって提供されるサービスの質も十分に検討する必要があります。
弁護士が顧問契約において提供するサービスの質は,当該弁護士が注力している分野や,当該弁護士のレスポンスの方針,そして当該弁護士の性格によって変動すると考えられます。
残念ながら,全ての弁護士が全ての法分野に同程度に精通しているという状況にはありません。そのため,弁護士との顧問契約によって提供されるサービスを検討するにあたっては,その弁護士が注力している法分野をしっかりと確認することが必要です。
また,特にスタートアップにおいては,顧問弁護士に対して法律相談その他の法律事務を依頼する必要性が生じた場合,迅速なレスポンスを期待することが多いと考えられます。そのため,弁護士のレスポンスの方針は確認する方が良いと考えます。
そして,弁護士との間で顧問契約を締結する場合,その弁護士との相性は非常に重要になります。
たとえば上記の注力分野については,顧問契約を締結した弁護士が熱心に取り組むことで,顧問契約締結後に当該弁護士が対象の法分野に詳しくなっていく可能性が十分あります。これに対し,弁護士の性格や価値観が顧問契約締結後に変わる可能性は低いと考えます。
価値観が合わない弁護士との間で顧問契約を締結してしまうと,事業のリスクばかり指摘され,当該リスクを軽減しつつ事業を進める方法を提示してもらえず,事業を進められなくなってしまう可能性もあります。
当然ながら,弁護士の使命は社会正義の実現であり,顧問契約を締結した企業であっても,その企業が違法なビジネスを進めようとしている場合には,それを阻止するよう努める義務があると考えられます。そのため,事業のリスクを適切に指摘する弁護士は,「良くない」弁護士ではなく,むしろ「良い」弁護士であると考えられます。
しかし,自社のビジネスに興味関心があり,自社の発展に尽くすそうとしてくれる弁護士と,そうでない弁護士とでは,アドバイスの方法や内容が大きく異なります。そして,その差異が特にスタートアップの事業経営のスピードに与える影響は大きいと思います。そのため,法律顧問契約の締結にあたっては,弁護士が自社のビジネスに対して興味関心があるかを含め,弁護士との相性を吟味する方が良いと考えます。
最後に
この記事では,スタートアップにおける顧問弁護士の必要性や,顧問弁護士と契約をすることのメリット,そして顧問弁護士を選ぶ際のポイントについて説明しました。
弁護士との間で法律顧問契約を締結することで,将来のイグジットをスムーズに進められるメリットや,現在の事業経営のスピードを早められるメリットを享受できる可能性があります。
上記「顧問弁護士を選ぶ際のポイント」の記載も参考に,一度弁護士との間での法律顧問契約の締結をご検討いただければ幸いです。