令和4年消費者契約法改正と利用規約への影響

弁護士執筆記事
渡瀬・國松法律事務所
國松 大悟 弁護士
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令和4年6月1日に交付された消費者契約法及び消費者の財産的被害の集団的な回復のための民事の裁判手続の特例に関する法律の一部を改正する法律により,消費者契約法が改正されました。

この改正消費者契約法(以下「令和4年改正消費者契約法」といいます。)は,令和5年6月1日から施行されます。

消費者契約法は,消費者保護の観点から,利用規約中の条項を無効にする効果を有する規定を含むなど,特に消費者向けのサービスに関する利用規約への影響が大きい法律です。

過去には,モバゲーの利用規約について,適格消費者団体が株式会社ディー・エヌ・エーに対して訴訟を提起し,利用規約の消費者契約法違反が裁判所によって認められた例もあります(消費者庁「埼玉消費者被害をなくす会と株式会社ディー・エヌ・エーとの間の訴訟に関する控訴審判決の確定について」)。

そこで,この記事では,令和4年改正消費者契約法が利用規約に与える影響について,検討します。

令和4年改正消費者契約法の概要

まずは令和4年改正消費者契約法の概要を確認します。

令和4年改正消費者契約法における主要な改正事項は次の4つです。

  1. 契約の取消権を追加
  2. 解約料の説明の努力義務
  3. 免責の範囲が不明確な条項の無効
  4. 事業者の努力義務の拡充

このうち,利用規約に与える影響が大きいと考えられるのが「3. 免責の範囲が不明確な条項の無効」になります。

そこで以下では,この「3. 免責の範囲が不明確な条項の無効」という改正事項について,詳細を検討します。

新設された規定の内容

令和4年改正消費者契約法では,「3. 免責の範囲が不明確な条項の無効」を実現するため,第8条第3項として,次の規定が新設されます。

事業者の債務不履行(当該事業者,その代表者又はその使用する者の故意又は重大な過失によるものを除く。)又は消費者契約における事業者の債務の履行に際してされた当該事業者の不法行為(当該事業者,その代表者又はその使用する者の故意又は重大な過失によるものを除く。)により消費者に生じた損害を賠償する責任の一部を免除する消費者契約の条項であって,当該条項において事業者,その代表者又はその使用する者の重大な過失を除く過失による行為にのみ適用されることを明らかにしていないものは,無効とする。

令和4年改正消費者契約法第8条第3項

この規定(以下「本件新設規定」といいます。)は,消費者契約において,事業者の責任の一部を免除しようとする条項(以下「一部免責条項」といいます。)が存在する場合に,当該条項が「事業者側に軽過失がある場面」についてのみ適用されることを明らかにしていないときには無効となることを定めたものといえます。

具体的には,本件新設規定により,たとえば次のような条項が無効になると考えられます。

Example

当社は,法律で許容される範囲において,当社が負う損害賠償額の限度額を●万円とします。

なぜなら,「法律で許容される範囲において」という文言では,「事業者(等)の重大な過失を除く過失による行為のみに適用されることを明らかにして(いる)」とは言えないと考えられるからです。

消費者庁が公開している平成31年2月付「逐条解説」においてはすでに,次のような記載がありました。

例えば,消費者契約においてサルベージ条項を用いた例としては,「賠償額は,法律で許容される範囲内において,10 万円を限度とします」という条項があるが,法は事業者の故意又は重過失による損害賠償の一部を免除する条項を無効としていることから(法第8条第1項第2号,第4号),「賠償額は 10 万円を限度とします。ただし,事業者の故意又は重過失による場合を除きます」と具体的に書き分けるように努めるべきである。

逐条解説

しかし,実際上は,上記のような条項を有した利用規約を使用している事業者も少なくないと思います。

第8回消費者契約に関する検討会(2020年7月16日)における資料においても,国内外の事業者が上記条項に類似した規定を使用していることが示されています。

利用規約変更の必要性と変更方法

本件新設規定が上記のような効果を有することから,次の4つの条件を満たす利用規約を使用されている事業者の方は,今回の消費者契約法の改正に関し,利用規約を変更する必要があると考えられます。

  1. 事業者だけでなく,消費者に対してもサービスを提供している。
  2. 利用規約において,一部免責条項を用意している。
  3. 一部免責条項が,消費者相手にも適用されることとなっている。
  4. 一部免責条項について,事業者側に軽過失があるときにだけ消費者相手に適用されることが明らかとなっていない。

どのような内容に変更すべきか

それでは,利用規約を変更する必要がある場合,具体的には,どのような内容に変更すれば良いのでしょうか。

今後,上記逐条解説のアップデートなどで明確化される可能性があるものの,現時点では,「事業者(等)の重大な過失を除く過失による行為のみに適用されることを明らかにしていない」との評価を受ける基準が明確とまではいえないと考えます。

そのため,「どのような内容に変更すべきか」は,判断が難しい部分もありますが,一つの参考としては,消費者契約に関する検討会による令和3年9月付「報告書」(以下「本件報告書」といいます。)の記載が挙げられます。

その際,事業者が何を明示的に定めれば良いのか明確化する必要があるが,例えば,事業者が,軽過失の場合に損害賠償の限度額を定めるのであれば,明示的に,「当社の損害賠償責任は,当社に故意又は重大な過失がある場合を除き,顧客から受領した本サービスの手数料の総額を上限とする。」等の契約条項とすることが求められると考えられる。

本件報告書

こちらの記載に従えば,たとえば次のような規定に修正することが安全な対応であると考えられます。

Example

当社の損害賠償責任は,当社に故意又は重大な過失がある場合を除き,顧客から受領した本サービスの手数料の総額を上限とする。

どのような方法で変更すべきか

利用規約を変更する場合には,「利用規約を変更する方法について|改正民法下における対応」で検討した方法で行う必要があります。

ただ,本件新設規定によって無効となるような一部免責規定を修正して有効なものへと変更することは,サービス利用者にとって不利益な変更との評価を受ける可能性があります。

そのため,特に令和4年改正消費者契約法の施行後においては,民法第548条の4第1項第1号を利用することができない可能性がある点には注意が必要です。

定型約款準備者は、次に掲げる場合には、定型約款の変更をすることにより、変更後の定型約款の条項について合意があったものとみなし、個別に相手方と合意をすることなく契約の内容を変更することができる。
一 定型約款の変更が、相手方の一般の利益に適合するとき。
二 定型約款の変更が、契約をした目的に反せず、かつ、変更の必要性、変更後の内容の相当性、この条の規定により定型約款の変更をすることがある旨の定めの有無及びその内容その他の変更に係る事情に照らして合理的なものであるとき。

民法第548条の4第1項

最後に

この記事では,令和4年改正消費者契約法における改正事項が利用規約に与える影響について,検討しました。

上記「利用規約変更の必要性と変更方法」に挙げた条件を満たすような利用規約を使用されている事業者の方は,本件新設規定によって一部免責条項が無効となってしまうのを防止するためにも,一度弁護士に相談し,利用規約の変更を検討されるのが良いかもしれません。

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