ECサイトを立ち上げた場合や,アプリを開発した場合,Webサービスをリリースする場合には,利用規約の作成が必要になります。
では,そのような利用規約の作成は弁護士に依頼する方が良いのでしょうか。
この記事では,利用規約の作成を弁護士に依頼するか否かを悩まれている方を対象に,弁護士に利用規約作成を依頼した場合の費用感を記載しつつ,弁護士に依頼することのメリットなども記載します。
利用規約の作成を弁護士に依頼した場合の費用感
Webサービスやアプリの利用規約を作成する上では,どの程度の弁護士費用が必要になるでしょうか。
利用規約の作成を弁護士に依頼した場合の費用の相場は,次のようになると考えられます。
項目 | 費用 |
---|---|
単純なビジネスモデル | 8万円〜20万円 |
複雑なビジネスモデル | 15万円〜30万円 |
シンプルなECサイトやWebサービスの利用規約であれば,利用規約の作成に関する費用は8万円から20万円の範囲内に落ち着くことが多いと考えます。
これに対し,ポイント制やチケット制を導入したり,決済に関係する機能を設けたりする場合など,法令との抵触を特に特に注意すべきサービスに関する利用規約を作成する場合には,15万円から30万円程度の弁護士費用が生じることになると考えられます。
※ どのようなサービスが「法令との抵触を特に注意すべきサービス」に該当するかについては,複雑な判断が必要になります。たとえば,仕事を探している人と仕事をしてくれる人を探している事業者をマッチングしようとする場合には職業安定法への抵触可能性を検討する必要があります(参照:厚生労働省「求人情報・求職者情報の提供(募集情報等提供)と職業紹介の許可等が必要な場合の区分について」)。
利用規約を作成する必要
上記の通り,弁護士に利用規約の作成を依頼した場合の費用は,決して低い金額ではありません。
それでは,そもそもECサイトを立ち上げた場合や,アプリを開発した場合,Webサービスをリリースする場合,利用規約を作成する必要は本当にあるのでしょうか。
利用規約を作成していないWebサービスをたまに目にすることがありますが,一定数の利用者に対して何らかのサービスを提供しようとする場合には,基本的には利用規約を作成しておく必要があります。
利用規約を作成しないことには,次のようなリスクがあります。
- 違法なビジネスと評価されるリスク
- 多大な損害賠償責任を負担するリスク
まず,利用規約に適切な定めを置いていないことで,サービスやアプリが違法と判断されてしまうリスク(違法性の程度等次第では,刑罰が科されるリスクもあります。)があります。
次に,利用規約を作成しておかないと,民法の原則に従った損害賠償責任を負担することになります。
民法の原則通りの責任を負担するだけであれば大きな問題もないようにも考えられますが,そのような考えは十分に正確ではありません。
一般的に1対1の関係で締結される契約と異なり,サービスやアプリに関する利用契約は,単独のサービスの提供者が多数にわたる利用者との間で締結する契約としての性格を有しています。
したがって,個々の利用者に対して負担する責任が民法の原則に従って相当程度合理的な範囲内に抑えられたとしても,すべての利用者に対して負担する責任は膨れ上がってしまう可能性が残ります。
利用規約の作成を弁護士に依頼するメリット
上記のようなリスクを回避または軽減するために,ECサイトを立ち上げた場合や,アプリを開発した場合,Webサービスをリリースする場合には,利用規約を作成しておくべきといえます。
それでは,利用規約の作成は上記のような費用を支出してまで弁護士に依頼する方が良いのでしょうか。
結論としては,利用規約の作成は弁護士に依頼しておく方が良いと考えられます。
なぜなら,弁護士に利用規約の作成を依頼することには,次のようなメリットがあると考えるからです。
- サービス内容に即した利用規約を作成できる
- 利用規約の運用方法に関するアドバイスを得られる
- プライバシーポリシーなどの関係する文書の作成も依頼できる
以下,順に検討します。
サービス内容に即した利用規約を作成できる
利用規約を作ったとしても,それがWebサービスやアプリなどによって提供されるサービスの内容に即したものとなっていなければ,意味がありません。
サービスの内容に即していない利用規約を作ると,かえって混乱や炎上を招くリスクがあるとともに,上記の違法なビジネスと評価されるリスクや多大な損害賠償責任を負担するリスクを十分に回避または軽減できません。
弁護士に利用規約の作成を依頼すれば,利用規約作成の際に問題になることが多い知的財産関係の取扱いや資金決済に関する法律との関係などを検討した上で,サービスの内容に即した利用規約を作ってもらえるメリットを享受できます。
利用規約の運用方法に関するアドバイスを得られる
利用規約は,作成するだけでは意味がなく,適切な方法で,サービスの利用者とのサービスの提供に関する契約の内容に取り込む必要があります。
このような契約内容への取込みのためには,2020年に改正された民法の定めや電子商取引及び情報財取引等に関する準則などを十分に理解する必要があります。
弁護士に利用規約の作成を依頼すれば,このような改正民法の定めに精通した弁護士から,利用規約を契約内容に取り込むための方法についてもアドバイスを得られます。
弁護士にもよるものの,このようなアドバイスについては,利用規約の作成に必要な弁護士費用の中で対応してくれる弁護士が多いと考えます。
プライバシーポリシーなどの関係する文書の作成も依頼できる
Webサービスやアプリなどによってサービスを提供する場合,利用規約以外にも,個人情報の取り扱いについて定めた文書(プライバシーポリシー)や特定商取引法に基づく表記などの一定の文書の作成が必要になることが多いです。
利用規約の作成を弁護士に依頼すれば,このような文書も併せて作成してくれることが多いと考えられます。
※ プライバシーポリシーや特定商取引法に基づく表記の作成については,利用規約の作成とは別に弁護士費用が必要になる例が多いと考えます。もっとも,利用規約の作成にあわせて作成を依頼することで,これらの文書の作成に要する費用を抑えることができると考えられます。
最後に
この記事では,利用規約の作成の必要性や,利用規約の作成を弁護士に依頼するメリット,弁護士に依頼した場合に必要になる弁護士費用について説明しました。
利用規約の作成については,利用規約の運用方法に関するアドバイスを得る観点からも,弁護士に依頼することが望ましいでしょう。
顧問弁護士と契約を締結している場合には顧問弁護士に確認することが望ましいと考えられます。また、顧問弁護士と契約を締結していない場合には,利用規約の作成を支援する弁護士を探してみてはいかがでしょうか。