アプリやWebサービスを開発すると,とにかく早く誰かに使ってもらいたくなり,すぐにでもリリースしてしまいたくなるのではないでしょうか。
しかし,利用規約を作ることなくアプリやWebサービスをリリースしてしまうことは得策ではありません。
適切な利用規約を用意していないと,利用者(ユーザー)に対して多額の損害賠償責任を負担させられるリスクや,利用規約が炎上してアプリの評判まで落としてしまうリスクを負うことにもなります。
利用者(ユーザー)との契約関係を明確に定めた利用規約を作っておくことで,利用者とのトラブルを適切に処理し,円滑にアプリやWebサービスの運用を行うことができます。その結果,アプリやWebサービスを,より長く,より多くの人に使ってもらうことができると思います。
この記事では,アプリやWebサービスを開発してリリースする際に作成しておくべき利用規約の作り方について,その注意点等をご説明します。
アプリやWebサービスの利用規約の作り方は?
アプリやWebサービスの利用規約を作成する方法としては,大きく分けて次の2つの方法があります。
- インターネット上の雛形を使って自分で作成
- 弁護士等の専門家に依頼
以下,それぞれの方法において注意すべき事項を確認します。
インターネット上の雛形/サンプルを使って自分で利用規約を作成する
よりコストがかからない方法は,インターネット上から利用規約の雛形やサンプルを拾って自分で利用規約を作るというものです。
しかし,多額の損害賠償責任を負担させられるリスクや,利用規約が炎上してアプリやWebサービスの評判まで落としてしまうリスクを軽減または回避する観点からは,この方法はあまりオススメできません。
仮に,この方法で利用規約を作らざるを得ない場合には,最低限「利用規約はアプリやWebサービスの内容に整合するものでなければ意味がない。」という点には充分に注意してください。
アプリやWebサービスの内容に整合しない利用規約を作ってしまうことには,①混乱や炎上を招くリスク,②クレーム対応に失敗するリスク,そして③違法なビジネスと評価されるリスクがあります。
混乱や炎上を招くリスク
1点目として,一般消費者向けのサービスを提供するにもかかわらず対事業者を想定した記載を置いてしまうことなどにより,混乱や炎上を招く可能性があります。
実際,ひと昔前にUNIQLOが新サービスとして「UTme!(ユーティーミー)」をはじめた際に利用規約がネットで炎上したことがありました。
これはスマホで絵を描いた絵をもとにオリジナルのティーシャツを作れるという画期的なサービスですが,利用規約上,スマホで描かれた絵に関する権利がすべてユニクロ側に無償譲渡される建付けとなっており,それを見つけた利用者から強い反感を買ってしまいました。
※ このケースでは,そもそも利用規約を深く読み込んでいる人がいることに衝撃を受けるかもしれません。意外に利用規約マニアが存在するという点には注意が必要です。
あっ、著作権がユニクロさんにいっちゃうので、ちょっとご遠慮いただきないなーって。
— 小明 (AKARI) (@akarusan) May 24, 2014
RT @chocoratta0304: ユニクロのTシャツ作るアプリで作ってみました 実際に購入もできるそうですよ! http://t.co/2L1JJ1kUbj
このような権利の無償譲渡に関する定めが事業者対事業者,いわゆるBtoBのサービスの利用規約に入っていたとしても,このような炎上騒ぎになる可能性は低かったと考えます。サービスの特徴に整合しない利用規約によって炎上を招いてしまった例と評価できるのではないでしょうか。
なお、現在のUTme!(ユーティーミー)の利用規約では、著作権はユーザー側に帰属するとされています。
クレーム対応に失敗するリスク
2点目として,アプリやWebサービスの内容に応じた禁止事項や免責事項等を適切に定めておかないと,ユーザーからクレームが寄せられた場合に適切に対処できない可能性があります。
利用規約では,禁止事項や免責事項を定めるのが一般的です。
たとえば,経済産業省の定める利用規約においても,禁止される事項や免責事項が記載されているのが読み取れます。
この禁止事項や免責事項の重要な役割の1つとしてクレーム対応があります。
たとえば,情報共有アプリやWebサービスなどにおいて,他人を誹謗中傷するような投稿がなされた場合,アプリやWebサービスの運営者としては,直ちにその投稿を削除することも検討することになると考えます。
しかし,誹謗中傷行為を禁止行為として定めていなかったり,利用規約違反を理由とする投稿の削除に関する免責を定めていなかったりすると,投稿の削除を理由に「表現の自由の侵害だ」などといったクレームが寄せられる可能性が高まります。
他方,誹謗中傷を放置していると,誹謗中傷されている人や企業から「どうして削除しないんだ」などとのクレームが寄せられる可能性もあります。
結局,適切な禁止事項や免責事項を定めていないと,クレームに適切に対応できず,アプリやWebサービスの運用に支障が生じる可能性があります。
違法なビジネスと評価されるリスク
3点目として,アプリやWebサービスで提供するサービスの内容によっては,利用規約に必要事項の記載を行っていないことにより,法令の規制に抵触し,違法なビジネスと評価されてしまう可能性もあります。
たとえば,最近では多くのアプリやWebサービスで,アプリ内やWebサービス内で使える「チケット」や「ポイント」が用意されているように思います。
これらのチケットやポイントは,資金決済に関する法律が規制している「前払式支払手段」に該当する可能性があります。
この前払式支払手段に該当すると,原則として,行政庁への報告書の提出や供託金の供託などが求められ,法律の定めを遵守しない場合には,罰金等の制裁が課される可能性もあります。数年前には、関東財務局がLINEに対して立入検査を行いました(毎日新聞「一部アイテム通貨認定 関東財務局」)。
自分のサービスに合わない利用規約を作ってしまうと,このような法律の規制を見逃し,アプリやWebサービスの提供が違法なビジネスとなってしまうリスクがあります。
※ なお,上記の前払式支払手段に対する規制には大きな例外があります。そのため,利用規約内に適切な規定を置くことで,前払式支払手段に対する規制を免れる形で「チケット」や「ポイント」を発行できる可能性があります。
アプリやWebサービスの利用規約を弁護士に作ってもらう
インターネット上で拾った利用規約の雛形やサンプルを使って自分で利用規約を作ることには上記のようなリスクがあることから,利用規約の作成は,可能であれば,弁護士に依頼することが推奨されます。
弁護士に依頼するメリットや,弁護士に依頼する場合の費用感については,「利用規約の作成にかかる費用について|弁護士に作成を依頼すべきか?」に記載しておりますので,ご参照ください。
こちらの記事にも記載している通り,弁護士に依頼すれば,次のようなメリットを享受できると考えられます。
- サービス内容に即した利用規約を作成できる
- 利用規約の運用方法に関するアドバイスを得られる
- プライバシーポリシーなどの関係する文書の作成も併せて依頼できる
利用規約とプライバシーポリシー
利用規約を作成したら,次は個人情報の取扱いに関する指針を定めたプライバシーポリシーも作ることが有益です。
プライバシーポリシーも合わせて作っておくことで,アプリやWebサービスの利用者(ユーザー)から取得した情報を有益に利用できることになります。
こちらにつきましては「アプリのプライバシーポリシーの作成方法」もご参照ください。
最後に
この記事では,アプリやWebサービスの利用規約の作り方について,簡単にご説明しました。
アプリやWebサービスの利用規約を適切に作成しておくことにより,アプリやWebサービスをより長く,より多くの人に使い続けてもらうことができる可能性が高まります。